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この前ネットを見ていたら、こんなニュースを目にした。
記事の内容は、2021年1月~6月において、ツイッター内の投稿に対する法的な削除要請が、世界で4万件以上あり、そのうちの4割強にあたる1万8518件が日本での事案なのだという。
ふーん、なるほど。イチローの生涯打率が約三割と思えば、たしかに多い。
それで、さらに記事を読み進めてみると、削除要請の大半は、犯罪がらみの案件、たとえば、薬物取引やわいせつ、金融に関連の犯罪などが占めているのだという。
…なんというのか、恥ずかしい話である。
こういうニュースが流れると、決まって犯人捜しが始まる。そして、日本の情報教育はー、とか、若者のモラルがーなどと他責的な言葉がメディアを賑わす。実際、こうした犯罪に、若者が多く絡んでいることは想像できるし、日本人のITリテラシーは諸外国と比べて、本当に低いのだろう。
でも、なんというのか、そういう安直な批判がすぐさま出てくることそれ自体が、削除要請の数がこれほどまで増加したことと、深いところで通じているような気がしてしまう。
2022年1月24日、栃木県のJR宇都宮線の電車内で、タバコを吸っていた男性(28歳)を注意した、高校生(17歳)がその場で暴行され、大ケガを負った。周りにいた乗客はその状況を止めることはなく、青年は10分間にわたり暴行を加えられ、鼻の骨を折るなどの重傷だという。
現代の日本に足りていないもの、それはITリテラシーでもなければ、モラル意識でもない。圧倒的に足りていないもの…それは我慢強さではないだろうか。
我慢強さ…。あまりに月並みで、書いていて恥ずかしくなってきた。でも現代人は、あらゆることに対して、確実に我慢ができなくなっている。
たとえば、我々の多くは、映画館に足を運び、本編を2時間使って見るよりも、家のソファーでくつろぎながら、youtubeで3分のダイジェスト版を見てお茶を濁すようになってしまっている。
さらにひどい事態として、30秒程度のショート映像が、現在の動画トレンドとして急浮上しつつある。
現代は忙しい。
あらゆる情報が氾濫する中で、目の前の事象を5秒で判断し、3秒で説明するような力が求められている。そうであれば、2時間を超える映画を見ることは苦行のようなものであり、30秒のショート動画ですべてをわかった気になるのもしょうがないのかもしれない。
つまらないものに耐えること。あるいは、自分の思い通りにいかなくても、我慢すること。こうしたことは、「コスパ」が重視される現代では、無駄な部分として、しばしば端折られていく。
すると、社会の中ではできるだけ短い間にわかりやすい結果が求められるようになってしまう。だけど、忍耐を重ねた末に、ようやく結果に結びつくことのほうが、世の中多いのではないか?
今から13年前、2009年のWBC決勝の韓国戦で、イチローはそれまで全く不振だった状況をはねのけ、センター前に勝ち越しのタイムリーヒットを放った。
日本の全国民が歓喜に打ち震え、ガッツポーズをしている中で、彼は二塁ベース上でほとんど表情を変えずに、エルボーパッドを外していた。
…そんなことあります?世界一を決める試合の決勝打を放って、ガッツポーズはおろか、表情すら一つも変えないとかありえますか?
のちに彼はインタビューの中で「ダグアウトを見たら、泣いてしまうと思ったから、見ないように我慢していた」という旨を答えていた。
繰り返す。
今の日本に必要なのは、少々のことに一喜一憂せず、あるいは逆ギレすることもなく、淡々と日常をやり過ごす我慢強さではないか。
あれから10年以上経ち、あの当時の感動やカッコよさは、遠い過去の記憶になろうとしている。
それを思えばさ。タバコくらい、ちょっと我慢しなさいよ、みっともない。
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